交通事故を弁護士に依頼するといくらかかる?費用相場と安くする方法
常日頃から弁護士と関わりを持つ方は、そう多くないでしょう。すると気になるのが、弁護士費用です。交通事故被害に遭えば医療費や車の修理代など様々な出費が生じますし、場合によっては当面休業しなければならなくなります。最終的には損害賠償で埋め合わせるにしても、弁護士費用がどの程度なのかは知っておきたいところです。
ただ、今どきは弁護士費用相場の情報がないというより、Web上の至るところに情報が散らばっているため、かえって調べるのが面倒になっているというのが実情でしょう。そこで今回は、交通事故事件の解決を弁護士に依頼した場合の費用相場と、少しでも費用を安くするための方法について解説します。
1.弁護士費用とは
(1)何に対して費用が掛かるのか
弁護士の費用に関しては、基本的に法律的な専門知識についての技術料という面が大きいものといえます。ただ、医療の診療明細のように、何にどれだけ掛かったのかという内訳を知ることで、相場も理解しやすくなります。そこで、まずは何に対して費用が掛かるのか、その内訳をみていきましょう。
(2)弁護士費用の内訳
弁護士費用としては、相談料と着手金、日当、実費、報酬の5つが主に挙げられます。
①相談料
「相談料」とは、法律的な相談に対して掛かる料金です。事件解決の依頼をするかどうかにかかわらず、相談の時点で時間は取られますから、費用が掛かるのです。相場としては、30分につき5,000円というのが目安となりますが、近年は初回の相談料は無料とする弁護士事務所も多くなっています。
②着手金
相談した結果、交通事故事件の解決をこの弁護士に依頼しようと決めた場合に支払うのが「着手金」です。契約の際の手付金に等しいものであり、依頼の成否に左右されることなく支払う費用です。弁護士事務所によっては、この着手金も無料とするところがあるため、それぞれの事務所に確認してみるといいでしょう。
③日当
弁護士の業務では遠く離れた現場へ検証に赴いたり裁判所へ足を運んだりと、どうしても移動が多くなり、その間の事務所での業務ができなくなります。その分を補うための費用が「日当」です。後述しますが、往復でどのくらい掛かるかによって日当の額も変わってくるのが一般的です。
④実費
現場を検証するために移動した際の交通費や出張先での宿泊費、内容証明郵便の郵送費用、訴訟の際の印紙代、封筒代といった、業務において実際に使用した費用が「実費」です。
⑤(成功)報酬金
事件を解決した対価として支払われるのが報酬金です。成功して初めて支払われる契約の場合、「成功報酬金」ともいいます。着手金が得られる見込み金額に応じた算定となるのに対し、報酬金は実際に得られた金額に応じた算定額となります。
2.交通事故事件の場合の弁護士費用相場
交通事故事件は、示談交渉による解決と裁判等による解決の2通りが考えられます。
順に相場をみていきましょう。
(1)示談交渉による解決
まず示談交渉の時点で相手方との話し合いがまとまり、解決するケースがあります。この場合、着手金の有無によって、相場は以下のように変わってきます。
①着手金あり
着手金:10万円~20万円、報酬金:15万円+賠償金の8~20%
②着手金なし
着手金:0円、報酬金:20万円+賠償金の10~20%
(2)裁判等による解決
次に調停や裁判を行ったケースについてですが、ここでは裁判になった場合を扱います。訴訟を提起する場合、請求する損害賠償額に応じて弁護士費用も変わります。
①300万円以下
着手金:請求する賠償額の8% 報酬金:得られた額の16%
②301万円~3000万円
着手金:請求する賠償額の5% 報酬金:18万円+得られた額の10%
③3001万円~3億円
着手金:請求する賠償額の3% 報酬金:138万円+得られた額の6%
④3億円以上
着手金:請求する賠償額の2% 報酬金:738万円+得られた額の4%
(3)日本弁護士連合会報酬等基準と弁護士費用相場
平成16年3月までは、日本弁護士連合会報酬等基準というものが定められていました。これは、日本弁護士連合会(以下、「日弁連」といいます)が独自に設定した報酬基準ですが、自由化に伴い撤廃されました。ただ、わかりやすい目安として今でもこの旧日弁連報酬等基準に沿っている事務所もあります。
旧日弁連報酬等基準によれば、法律相談料は初回で30分ごとに5000円~1万円、それ以降は5000円~2万5000円となっています。また、訴訟の着手金は300万円以下の場合、得られる経済的利益の8%、報酬金は16%とされています。
示された弁護士費用について高いか安いかがわからない場合、旧日弁連報酬等基準が一応の参考となるでしょう。
参考:旧日弁連報酬等基準
3.弁護士費用を安くするためには
弁護士の業務は事件ごとに同一の処理ができるものではなく、一部の手続きを除けばオーダーメイドです。利益が出なければ仕事として成立しませんし、薄給の業界では質の高い人材の確保も困難となります。そのため、「安くなれば何でもいい」という姿勢は、かえって自分の立場を危険に晒す可能性もあることに注意しなければなりません。とはいえ、できる範囲で工夫して弁護士費用を低く抑えることは可能です。その方法をみていきましょう。
(1)資料を揃える
示談交渉にも裁判にも、主張を根拠付ける資料は必要不可欠です。交通事故に関連する資料には様々なものがありますが、中には被害者が自分で揃えられるものも少なくありません。すべての資料を一から弁護士に揃えてもらうと、その分だけ弁護士の稼働時間も長引きますから、費用は高くなります。そこで、依頼前に現場の写真や加害者の証言の録音、目撃者の連絡先といった資料をできるだけ揃えて弁護士に渡すことで、費用を節約できるのです。交通事故の示談や訴訟に必要な資料としては、人身事故の場合は次のようなものが挙げられます。
- 交通事故証明書:事故の発生を証明する書類。各都道府県の交通安全運転センターが発行する。
- 事故発生状況報告書:保険金を保険会社へ請求するにあたり、事故発生当時の状況を詳しく説明するための書類。
- 診療報酬明細書:保険診療について、医療機関が保険者に請求する医療報酬の明細書。
- 診断書:医師の診断について記載した書類。
- 後遺障害診断書:交通事故の後遺障害について医師が診断を記載した書類。
- 休業損害証明書:サラリーマンが交通事故で仕事を休んで生じた損害を証明する書類。
- 給与明細書:給与計算の項目と支給額を記載した書類。
- 源泉徴収票:給与・退職手当・公的年金等の支払額と、源泉徴収した所得税額を証明する書面。
- 確定申告書(控え):確定申告において支払った所得税を記載した書類。
- 領収書:交通事故に関連する出費を示す書面。
(2)無料相談サービスの利用
上でご説明したように、弁護士への法律相談には30分につき5000円前後の料金が掛かります。しかし、法律事務所によっては初回の法律相談が無料のところもありますし、また自治体の行う無料法律相談といったサービスもあります。こうしたサービスを利用することで、効率的に事件の解決を目指すことが可能となります。各事務所のホームページや自治体の広報誌、ホームページなどで無料相談サービスの有無や日程が確認できるので、チェックしてみるといいでしょう。
(3)事故現場や裁判所に近い事務所を探す
弁護士費用の内訳に、日当と実費がありました。その中には交通費や、移動に応じて掛かる費用が含まれています。つまり、交通事故の現場や裁判所から遠いところにある弁護士事務所を選んでしまうと、その都度高額な交通費や日当を要するということです。日当は、旧日弁連報酬等基準に沿って、往復2~4時間までを3万円~5万円、往復4時間を超えれば5万円~10万円程度としている事務所が多いようです。特にこだわりがなければ、事故現場や裁判所に近い事務所を候補とするほうが費用は抑えられます。
(4)弁護士費用特約の利用
「弁護士費用特約」とは、交通事故の任意保険のオプションサービスのことで、交通事故事件の解決に向けた弁護士費用や、法律相談をするときの費用を、保険会社が300万円を上限として負担するというものです。上でご説明した通り、弁護士費用の中で大きな割合を占める着手金や報酬金は、請求する損害賠償額や得られた賠償金との兼ね合いで決まるため、多くの交通事故では弁護士費用が300万円を超えることはありません。
それゆえ、弁護士費用特約さえ付けておけば、自分の持ち出しなしに弁護士のサービスを受けられることになるのです。なお、弁護士費用特約に掛かる保険費用は年間で数千円程度ですので、交通事故に備えるのであれば、加入しておくことをおすすめします。
4.弁護士に依頼する際の注意点
(1)途中解約と違約金
着手料を無料とする弁護士事務所もそれなりにありますが、そうした事務所では、途中解約の場合に違約金を請求することがあります。なぜなら、着手金を無料とするのは、成功報酬金による収入を見込んでのことなので、途中解約をされてしまうとタダ働きになってしまうからです。よほどでなければ途中解約を避けると共に、そもそも解約をしたいと思うような弁護士に依頼せず、きちんと面談した上で信頼の置ける相手かどうかを判断することが大切です。
(2)極めて軽微な事件の場合
交通事故が極めて軽微で、多額の賠償金も見込めないような場合、弁護士に依頼しても費用倒れになるのではないか、という心配があるのではないでしょうか。これについては、確かに着手金や日当、実費などとの兼ね合いで、弁護士費用の分だけマイナスになることもないわけではありません。
しかし、多くの場合、事前の相談で採算が合うかどうかは教えてくれますし、入通院慰謝料だけでも弁護士に依頼することで相当の増額は見込めます。また、弁護士費用特約がある場合は、そもそも持ち出しがないわけですから、遠慮することなく弁護士に相談すべきです。軽い接触事故などのときでも、ひとまず弁護士に相談してみるといいでしょう。
5.交通事故における弁護士の選び方
弁護士の選び方としては、3つのポイントがあります。それは、評判・実績・対応です。
(1)評判
口コミやレビューなどは、あらゆるサービス業で選択の判断材料にされますが、それは法律事務所でも同様です。評判がいまいちなところよりは、好評価の多い事務所を選ぶほうがいいといえます。
(2)実績
評判だけでは選ぶ基準として確実とはいえないので、実績も加味しましょう。法律事務所は、少なくとも法に触れるような実績の水増しなどは行いません。露見したら信用問題となり、致命的だからです。交通事故の問題について相談したい場合は、ホームページなどで交通事件の解決実績を確認しておくといいでしょう。弁護士にもそれぞれの分野で得手不得手があります。交通事故に特化した弁護士を選ぶことで、スムーズな解決を目指すことができます。
(3)対応
医師もそうであるように、人間ですから相性もあります。実際に無料相談などで面談を行い、担当弁護士が信頼できるかどうかを確かめましょう。特に気を付けたいのが、費用面と方針の説明です。見積もりの説明が明確で丁寧かどうか、どういう方法で問題を解決するつもりなのかという説明があるかどうか、といった点を見定めるのが大切です。
まとめ
弁護士費用はわかりにくいと言われることが多いものですが、実際に相談すれば、請求できる損害賠償額の見込みと併せてきちんと説明してくれます。また、資料を揃える、現場に近い事務所を選ぶといった取り組みで弁護士費用を安く抑えることもできるので、気後れすることなく相談に行くといいでしょう。
弁護士が介入することで、加害者側の対応や慰謝料の算定基準が変わり、被害者が単独で交渉するよりも多くの損害賠償が得られる結果、弁護士費用も賄えるという場合は少なくありません。交通事故の被害に遭った場合、まずは無料相談などに足を運んでみてはいかがでしょうか。