交通事故の後遺障害認定とは?適切な等級認定を受ける為にやるべき事
交通事故で負った怪我の中には、治療を続けても完治しないものもあります。手や首の痛み、しびれ、頭痛や目まい……。様々な症状は、時に日常生活を送ることすらも困難にします。傷ついた身体は簡単に取り返しのつくものではありません。せめて保険金なり慰謝料なりでの埋め合わせは求めたいところでしょう。そこで今回は、交通事故による傷害が治り切らず不調が残ってしまった場合に、望ましい額の損害賠償や慰謝料を受ける方法をご説明します。
1.損害賠償と後遺障害の関係
(1)実は違う「後遺症」と「後遺障害」
「後遺症」と「後遺障害」は、言葉だけ見ると同じようなものに思えますが、異なる意味を持っています。後遺症とは、病気や怪我が治った後になおも残る症状や傷痕をいいます。たとえば脳梗塞の後に麻痺や言語障害が出る、交通事故でむち打ち症となって後々まで頭痛に悩まされる、といった状態です。
これに対して後遺障害とは、保険や損害賠償に関係する用語です。自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」と略します)施行令の第2条第1項第2号に、「傷害が治つたとき身体に存する障害」と定められています。
参照元:自動車損害賠償保障法施行令第2条第1項第2号
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=330CO0000000286#13
(2)後遺障害と認められるための要件
後遺障害は保険金や損害賠償の請求に関わるため、一定の要件を充たした場合でなければ認められません。具体的には、次の5つの要件を充足する必要があります。
- 怪我や症状が将来にわたり治り切らないものであること
- 怪我や症状の原因が交通事故によるものであること
- 怪我や症状が労働力の低下を招くものであること
- 医学的に後遺症が証明ないし説明されたものであること
- 怪我や症状が自動車損害賠償責任保険(以下、「自賠責保険」と略します)に定めのある等級に該当するものであること
「後遺症」という大きな枠組みの中で、労働力の低下を招き自賠責保険の等級に該当する一部の怪我や症状を「後遺障害」と捉えるわけです。
(3)後遺障害と損害賠償
交通事故による損害には、大きく分けて「財産的損害」と「精神的損害」があります。このうち財産的損害は、実際に支出した医療関係費や交通費などの「積極損害」と、休業中の収入のように、本来得られたはずの利益が得られなくなったという「消極損害」とに分かれます。他方、精神的損害は慰謝料という形で補償されます。
後遺症が出た場合の損害賠償は、3つに分かれます。後遺障害に伴う将来の治療費や介護料(積極損害)、後遺症による逸失利益(消極損害)、そして後遺症に対する慰謝料(精神的損害)です。これらは傷害に対しての損害賠償とは別に請求できます。ところが、後遺症が後遺障害として認定されず、等級に非該当となってしまえば、逸失利益や後遺障害慰謝料といった損害賠償が受け取れなくなります。したがって後遺障害の等級認定は、なるべく多くの損害賠償を受け取るため重要なものなのです。
2.後遺障害認定の方法
(1)傷害と後遺症を区別する基準~症状固定~
まず、治療を受けて後遺症が残り、それが後遺障害として認定されるまでの具体的な流れを確認しておきましょう。上で触れたように、傷害に対する損害賠償と後遺症に対する損害賠償とは別です。しかし、治療中の傷害と後遺症とを区別する目印はないので、誰かが「これ以降の症状は後遺症とする」と決める必要があります。傷害と後遺症が分けられる基準を「症状固定」といい、これ以上治療を続けたとしても症状が改善しないと判断された状態を指します。
症状固定に当たるかどうかを決めるのは、医師と被害者です。加害者側の保険会社が症状固定を求めてくる場合もありますが、その際には注意しなければなりません。入通院に掛かる治療費は傷害に対する損害賠償へ含まれるため、症状固定とされて以降の治療費は支払われなくなってしまうからです。症状固定とされた後は、医師に後遺障害診断書を書いてもらい、後遺障害認定の申請を行うことになります。
(2)後遺障害診断書とは
後遺障害診断書は、正式には「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」といい、どの診療科でも同じ形式となっています(歯科を除く)。後遺障害診断書には、治療が始まった日や、いつ症状固定したか、入通院の日数、自覚症状や他覚症状といった内容が記載されます。医師の仕事は治療なので、後遺症が残ってしまったことを示す後遺障害診断書を書きたがらない場合もあります。しかし後遺障害認定申請に必要な書類なので、きちんと請求するようにすべきです。
(3)後遺障害認定の申請方法
後遺障害の等級認定は、損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)という団体が行います。これは「損害保険料率算出団体に関する法律」に基づき設立された、公の組織です。
参考:損害保険料率算出機構
後遺障害の等級認定申請は、損害保険料率算出機構に書類や資料を提出する形で行いますが、その申請方法には2つあります。1つは「事前認定」という、相手方の保険会社を経由して申請する方法であり、もう1つは「被害者請求」という、被害者本人が申請をする方法です。
①事前認定
多くの場合、保険会社は損害賠償のうち「自賠責保険で賄われる部分」と「保険会社の負担部分」を一括して被害者に支払いますが、自賠責保険で賄われる額が不明であれば、被害者への一括支払いができません。そこで支払いに先立ち、事前に認定される等級を保険会社が損害保険料率算出機構に申請し、確認するというのが事前認定です。
②被害者請求
事前認定は手続きを保険会社が行ってくれるため楽ではありますが、等級認定に向けた適切な資料が用意され最善の努力が尽くされるとは限りません。やはり、どのような後遺症が残っているかを一番よくわかっているのは被害者本人ですから、等級認定の参考となる資料も被害者自身で用意するほうが確実です。そこで被害者が加害者側の保険会社から資料を取り寄せ、損害保険料率算出機構に申請するのが被害者請求です。
被害者請求の際に必要となる書類は、交通事故の具体的な態様によっても異なりますが、交通事故証明書や診断書、各種診療明細書、印鑑証明書、レントゲンやMRIの画像などが挙げられます。詳しくは医師や弁護士に確認してみてください。
3.後遺障害の等級とは
(1)公平な損害賠償のための等級
交通事故でどれほどの後遺症が残るかは、人それぞれ違います。ただ、同じ程度の後遺症なら、だいたい同じ額の損害賠償金を受け取るのが公平といえるでしょう。そこで、後遺症を後遺障害として認定する際にクラス分けし、一括して扱えるようにしたものが等級です。
(2)等級とその内容
等級は、「介護を要する後遺障害」が第2級、「後遺障害」が第14級までの16等級142項目に分かれています。第1級がもっとも重く、順に軽くなっていきます。後遺障害第1級の場合、その内容は以下のように6項目に分かれており、自賠責保険で下りる金額は3000万円となっています。労働能力も100%失われると認められます。
- 両眼の失明
- 咀嚼、言語機能の喪失
- ひじ関節以降の両手喪失
- 両手の肩以降の関節の麻痺
- ひざ関節以降の両足喪失
- 両足の股関節以降の麻痺
後遺障害第14級の場合、その内容は以下のように9項目に分かれており、自賠責保険で下りる金額は75万円となっています。
- 片目のまぶたの一部欠損、まつげの禿げ
- 3本以上の歯が抜けたり欠けたりした
- 片耳が1メートル以上の距離では小声を聴き取れない程度になった
- 腕の露出面にてのひら大の醜いあとが残った
- 足の露出面にてのひら大の醜いあとが残った
- 片手の親指以外の手指の指骨の一部の喪失
- 片手の親指以外の指先の関節が屈伸できなくなった
- 片足の足指の切断または麻痺
- 局部に神経症状が残った
他にも症状が細かく規定されていますので、自分の後遺症がどの等級の後遺障害として認められるかは判断の難しい問題です。
4.適切な等級認定を受けるには
(1)等級に関連する保険金と慰謝料
認定される後遺障害の等級は、下りる保険金の額だけではなく後遺障害慰謝料の額とも関係してきます。慰謝料の算定額は、採用する基準によっても異なりますが、もっとも低い自賠責基準で第1級は1100万円、第14級は32万円と、かなり金額に差があることがわかります。最終的にいくら受け取ることができるかは、財産的損害の賠償金と慰謝料の合計で決まるため、適切な等級認定を受けることが重要となります。
(2)等級認定の審査とポイント
損害保険料率算出機構による等級認定の審査は、原則として書面および資料のみで行われます。つまり、書面や資料に書かれていない症状は、いくら被害者が苦しんでいたとしても一切審査には影響しないのです。また、審査の具体的基準は明らかにされていませんが、症状だけではなく交通事故との因果関係が重要だと考えられています。いくら体調に不具合が生じていたとしても、それが事故と無関係に生じたものであれば、そもそも後遺障害とは認定されないからです。
以上を踏まえて、申請のポイントとなるのは2つです。
- 症状や不具合はきちんと書面や証拠として表し、申請の際に添付すること
- その症状や不具合が交通事故によって生じたものだという関係性を証明すること
(3)等級認定の申請と弁護士
ただ、以上のような申請のポイントをきちんと踏まえるのは難しいことです。なぜなら、具体的にどのような症状がどの等級に該当するのかという判断が一般人には困難であるのに加えて、後遺障害診断書を書く医師も等級認定や損害賠償の専門家ではないため記載に不備がある場合もあるからです。
そこで、後遺障害の等級認定申請をする際には、交通事故事件を豊富に手掛けている弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、事故の具体的態様や症状から適切な等級を判断できますし、等級認定を受けるためにどのような書面の記載を行えばいいかも承知しています。望ましい損害賠償額や慰謝料を受け取るには、専門的なサポートを受けるのが確実といえるでしょう。
注意点としては、弁護士への相談のタイミングです。症状固定の判断をしてしまってからでは、選択の幅が狭められるおそれがあります。できれば症状固定前に相談し、最適な等級認定に向けて動けるようにしておくのが望ましいといえます。
まとめ
後遺障害の認定にあたっては、医師の診断を受けるだけではなく、自分自身で不調を主張していかなければならないこともあります。特にむち打ち症などの外見からはわかりにくい症状の場合、交通事故との因果関係も含めて、きちんと診断書に記載してもらわなければなりません。適切な等級認定を受けることで、後遺障害部分に対する損害賠償の金額が大きく変わってきます。そのためには、書面や資料の準備が不可欠です。お悩みのことがあれば弁護士に相談し、アドバイスやサポートを受けることをおすすめします。